終活を進めておく大きな理由にひとつに、残された家族にできるだけ迷惑をかけたくないという思いの方も多くいらっしゃるでしょう。人の死後というのは、葬儀の準備から始まり、自宅の片付けや供養について、そして財産の整理や相続についてなど多岐に渡る作業や手続きが発生します。家族ができるだけ判断に困ることのないよう、自身の想いや事務的な申し送り事項などをまとめておけると安心です。
人が一生かけて歩んできた人生を振り返り、不要なものは処分をし必要な情報をまとめておく作業は思っている以上に手間と時間がかかるものです。
特に、財産の整理や相続については気をつかう必要があるでしょう。正確な財産の把握、洗い出しから、それを誰にどのように相続させるのか明確にしておくことが大切です。
そのために有効なのが、遺言書です。遺言書にもさまざまルールがあり、法的に有効なものをきちんと残しておくにはあらかじめ準備が必要です。
遺言書の作成は心身ともに元気なうちに行うのがおすすめです。
万が一、遺言書を作成する前や作成中に認知症などの病気になったり、寝たきりの状態になった場合、遺言書の有効性は保たれるのでしょうか?

今回の記事では、認知症などを患った時の遺言書の法的な有効性について考えていきたいと思います。

遺言書はどうしても必要なものなのか?

まず遺言書というのは、全ての人に必要なものなのかを考えてみたいと思います。
自分には大した財産がないから遺言書は必要ないのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかしごく普通の家庭であっても、お金が絡むといざ相続となった時に、思いもよらなかったところからトラブルに発展してしまうことが多々あります。残された大切な家族が揉めてしまうのであれば、自分の意思を遺言書という形で残しておくのができるだけトラブルを回避するための最善と言えるでしょう。
そのため、自分に必要はないと思わずに、どんな方でも遺言書を作成して準備をしておけると安心なのです。

もし遺言書を作成せず亡くなった場合、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。そこで分割方法などが話し合われるのです。
遺言書が作成されていると、その内容が法定相続分よりも優先されることになるため、被相続人の意思や想いを明確に残すことができるのです。
例えば、介護や身の回りの世話をしてくれた人や血縁関係のない人など、法定相続人ではない人に財産を残したい場合には、遺言書が必ず必要となります。

また、法定相続人の遺留分についても考慮をしておく必要があるでしょう。配偶者と子ども、孫などのには、最低限相続できる遺留分が認められているため、被相続人の意思の通りに分配することができない場合もあるのです。

特に遺言書の作成が必要だと言えるのは以下のようなケースがあります。
 ・法定相続人以外に相続させたい
 ・法定相続分とは異なる分配をしたい
 ・財産別に相続人を指定したい
 ・血縁関係が複雑である場合
 ・家族、親族が不仲である

法的に有効な遺言書とは?

遺言書の必要性についてはご紹介してきましたが、次に考えていきたいのが確実にその遺言書に記載された内容の相続を実現させるために、遺言書の法的有効性についてです。
遺言書は思い付くままに、文章に残しておけば良いというわけではなく、さまざまなルールにのっとった上で作成し保管をしておく必要があります。

遺言書には下記の3種類があります。

 ◆自筆証書遺言
  遺言者自身が遺言書の内容、日付、氏名を自筆し・押印し、自身で保管する形式。
 ◆公正証書遺言
  遺言内容を公証人が筆記・押印して遺言書を作成する形式。作成時に、証人の立会いが必要で作成した遺言書は公証役場で保管。
 ◆秘密証書遺言
  本文は代筆可能で、署名・押印は自身で行い作成をしたものを、公証役場で自身の遺言であることを保証してもらう形式で、保管は自身で行う。

この中で、法的有効性を持たせるために一番おすすめなのは、公正証書遺言です。専門家の元で作成、保管をするため内容に不備が発生する可能性が最も低いと言えます。

さらに次に考えていきたいのが、万が一遺言書を作成する前や作成中に認知症を患ってしまったケースです。
既に認知症を患っている場合、遺言書を作成することはできるのでしょうか? 作成した遺言書が法的に有効かどうかは、遺言書を作成した時点における、遺言書の内容においての判断能力がどの程度であったかが重要となります。認知症を発症しているからと言って、すぐに遺言能力がないと判断されるわけではなく、症状をみて判断をすることになります。

遺言書を作成していても、被相続人が亡くなった後に相続人から認知症の発症を理由に、遺言書は無効だという主張が出てくることもあるでしょう。そのような場合には、法的有効性を焦点に最終的には裁判で争うことになります。裁判の中で重要になってくるのは、遺言書を作成した時点での判断能力の有無や程度を客観的に証明できる資料があるかどうかです。
そのため遺言書を作成する際には、判断能力についての診断書や介護記録など、客観的な医療記録を残しておけると安心でしょう。第三者の立場の専門家としての資料があることで、相続時に発生するトラブルを回避でき、より遺言書の有効性を高める材料となります。

逆に遺言書作成時に重度の認知症であると判断された場合は、遺言書の法的効力は無効となることがほとんどと言えるでしょう。認知症の症状が進み、例えば遺言の意味すら認識できない状態で作成されたと判断されたなら、その意思表示は無効であるとされ遺言書そのものが無効となります。
寝たきりで言葉を発することもできない状態である時などは、不動産や預貯金などの財産について把握したり分配を指定するなどの遺言を行う能力は、なかったと考えられることが多いと言えます。
これは公正証書遺言で作成された遺言であっても、無効と判断される可能性はあります。
認知症は、記憶障害や判断力の障害を引き起こす病であり、自身の行為や行動の良し悪しを判断できない状態に陥ることがあるからです。そのような状態で作成された遺言書は認められることはないと言えます。

周囲が遺言を偽造する場合も
自身が元気なうちに法的に有効な遺言書を作成していたとしても、親族などが遺言書を書き換えた場合その遺言は無効となります。また、遺言書を残していないのに周囲が勝手に本人名義の遺言書を偽造した場合もその遺言書は無効となります。
さらに配偶者や子供、親族などによって強迫などが行われ、自身の意思に反して無理やり遺言書を書かせるケースがあります。その場合、強迫などの事実を証明することができれば、遺言書を無効とすることができるでしょう。
認知症を発症し症状が進行すると、本人が遺言書を適切に管理できず上記のような偽造や書き換えなどの悪質なトラブルに発展することもあります。

まとめ

ここまで、遺言書作成の重要性と認知症を発症した場合の有効性についてご紹介をしてきました。
まず第一に、遺言書の有効性をもっとも確実にするためには、公証役場にて公証人の元で公正証書で遺言書を作成する方法と言えます。
なるべく心身ともに元気なうちに、この方法で遺言書を作成しておくのがトラブルを回避する1番の近道です。
すでに認知症を患っている場合は、公正証書遺言を作成する際に公証人から医師の診断書の提出を求められるでしょう。公証人が遺言能力があるという判断の元、公正証書遺言が作成されていれば、後に認知症であったことを理由に遺言書の有効性を争われたとしても、遺言書が無効であると判断される可能性は大幅に低くなるのです。

自身の死後に家族間でのトラブルを無くすためには、遺言書を作成しておくことがとても大切です。例えば親が既に認知症を患っている場合でも、遺言書が作成できないわけではありません。事前に家族の間で話し合いをもち、遺言書を作成しておくことでトラブルを回避することができるしょう。その際には、遺言書作成時の判断能力についての診断書や介護記録などの医療記録を確保しておくことも忘れないようにしましょう。

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