(本記事作成日:2021年10月22日)
自分が亡くなった後の財産に関しては、法律によって誰にどれだけ配分されるかの配分割合が決められています。
これを「法定相続分」といい、民法によって定められています。
遺言書もなく、相続人での話し合い(「遺産分割協議」といいます)もなされない場合には、この割合に基づき遺産が分配されることになります。

しかし、この法定相続分に基づく相続割合では、被相続人(亡くなった方)の意思が反映されない場合があります。
例えば、配偶者(妻または夫)にできる限り多く遺したい、親族ではないがお世話になった方に渡したいなど、それぞれに希望があるはずです。
その意思を叶えるために作成されるものが、遺言書になります。

今回の記事では、遺言書の中でも、一人で作成できる「自筆証書遺言」について、書き方や内容について詳しくお伝えしていきます。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言書を書く人が一人で作成できる遺言書の種類です。
必要になるものは、紙・ペン・印鑑のみです。
ただし、作成においては注意点がありますので、本記事内で詳しくお伝えしていきます。

自筆証書遺言作成のメリット・デメリット

自筆証書遺言のメリット

1.作成費用が安い
前述したように、自筆証書遺言書の作成においては、紙・ペン・印鑑があれば作成可能なため、非常に安価になっています。
そのため、後に内容を変更したい場合にも、費用をかけることなく変更することが可能です。

2.作成時に証人が不要
自筆証書遺言は、遺言者が一人で作成することができます。
遺言書の種類に「公正証書遺言」というものがあり、これを作成する場合には、作成者である遺言者のほかに、遺言書の内容を確認する証人を2名用意する必要があります。
しかし、相続人などの一定の関係にある者は証人になることが出来ず、準備することは容易ではありません(公証役場で準備することも可能ですが、その分の費用が必要になります)。

3.遺言書の存在を知られずに済む
自筆証書遺言は、遺言者一人で作成できることから、その存在を他人に知られずに済むことが可能になります。

自筆証書遺言のデメリット

1.不備で遺言書が無効になるおそれがある
自筆証書遺言を作成する際、その内容に関しては一定のルールがあります。
そのルールを満たしていないと、遺言書を作成したとしても、その内容に法的な拘束力はありません。
その場合、遺言書の内容が実行せず、遺言者の意思が実現しない可能性が出てきます。
自筆証書遺言にて作成する場合には、事前に書き方や内容のルールを正確に把握する必要があります。

2.紛失や偽造の恐れがある
自筆証書遺言の場合、他人がその内容を書き直す偽造の可能性があります。
どのような内容を書いたかを他人に伝えていない場合、内容が書き換わっていたとしても誰も気づかないため、遺言者の意図しない内容となるおそれがあります。
また、自宅などに作成した遺言書を保管している場合、何らかの事情で紛失する場合があります。

3.家庭裁判所の検認が必要
自筆証書遺言を作成した場合、その内容が有効なものかどうか、家庭裁判所の検認が必要になります。
ここで、遺言書の内容が有効性や、偽造されていないかといった確認がなされます。
家庭裁判所にて検認を受けると、検認済証明書(家庭裁判所にて検認を受けたことを証明するもの)が発行されるため、これによって、その内容の有効性が担保されることになります。

自筆証書遺言作成に必要な要件

自筆証書遺言を作成する場合には、法律(民法第968条)で定める要件に沿って作成する必要があります。
この要件を満たしていない場合、遺言書の内容が無効となります。
自身で作成する場合には、しっかりと内容を確認するようにしましょう。

1.遺言者本人が全文を自筆で書く
自筆証書遺言の内容は全て、遺言者本人が自筆で書く必要があります。
家族が代わりに書いたり、パソコンで作成した場合、要件を満たしていないことになり無効となります。
自筆で書くことを要件とすることで、他者による偽造を防ぐことが出来ます。

ただし、法律の改正により、財産目録に関しては、パソコンでの作成が可能となりました。
財産目録とは、遺言者の所有する財産をまとめた一覧表のことです。
現金や不動産などの資産だけでなく、借入金などの負債も記入できます。
注意点としては、パソコンでの作成が認められる財産目録は、2019年1月13日以降に作成されていることが必要です。

2.作成日の記載
遺言書を作成した日付は正確に記載して下さい。
例えば、「令和3年10月吉日」のように、日付が特定できないものは無効になります。
年号は、西暦でも和暦でもどちらでも構いません。
また、漢数字でも算用数字でもどちらでも構いません。
遺言書が複数作成されていた場合には、記載されている内容が異なる場合、日付が新しいものが有効となります。

3.氏名の記載
遺言者の氏名をフルネームで必ず記載して下さい。
例え、誰が作成したものかが分かる内容になっていたとしても、氏名の記載が無い場合には無効となります。

4.印鑑を押す
遺言書には、遺言者の自署とともに印鑑を押す必要があります。
押印に使用する印鑑は、実印である必要はありません。
ただし、後々のトラブルを防止するためにも、実印であることが望ましいとされています。

自筆証書遺言作成までの流れ

実際に自筆証書遺言を作成する場合には、以下の流れで作成していきます。

1.相続人の特定、各相続人の相続割合・遺留分の把握
遺言書作成の前にやることとして、まずは相続人の特定があります。
法律により、誰が相続人かが決まっています。
また、相続人ごとに、遺産がどのような割合で振り分けられるか(法定相続分)も決まっています。
まずは、「誰に」「どのくらいの割合」遺産が渡るのか把握しましょう。

遺言書によって財産の振り分け方を指定する際に注意すべきことがあります。
それは、「遺留分」と言うものです。
これは、法律で守られた、相続人ごとの最低相続割合のことを言います。
そのため、この遺留分を超えて遺産の振り分けをしようとしても、それは法律上認められないことになります。
例えば、自分の財産を全額、家族以外の第三者に渡そうと考えても、配偶者や子供などの家族がいる場合には、遺留分に相当する金額は家族に渡り、残りの金額が第三者に渡るようになります。
遺言書を作成する場合には、この「遺留分」を考慮して作成することで、相続人間でのトラブルを防止することができます。

2.財産目録作成
前述したように、財産目録とは、 遺言者の所有する財産をまとめた一覧表のことです。
財産目録を作ることで、財産の全体を把握することができ、それを元に相続割合を決めることができます。
財産目録の作成は義務ではありませんが、作成しておくことで遺言書の作成がスムーズに進みますのでオススメです。

3.財産の振り分け方を決める
相続人と財産が特定できたら、遺言者の意思に基づき、「誰に」「何を」「どのくらい」渡すのか、振り分け方を考えます。
前述したように、これらを決める際には「遺留分」に配慮し、それを超えない範囲で割合を指定して下さい。

4.自筆証書遺言書の作成
遺言書の内容が決まったら、自筆証書遺言作成の要件を満たす形で、遺言者本人が自筆で作成して下さい。

自筆証書遺言の保管制度について

自筆証書遺言のデメリットの際にもお伝えしましたが、自宅などで保管する際、紛失や偽造の可能性が生じてきます。
また、遺言者の死後に、作成した遺言書を見つけてもらえない心配もあります。
このような事態を防ぐために新設された制度が、法務局での遺言書保管制度です。
自筆証書遺言保管制度のポイントについて、以下に記載していきます。

1.法務局で保管される
作成した自筆証書遺言は、法務局にて保管されます。
実際に保管される法務局は、以下の3つのいずれかになります。
・遺言者の住所地を管轄する法務局
・遺言書の本籍地を管轄する法務局
・遺言書が所有する不動産の所在地を管轄する法務局

2.保管費用がかかる
保管にかかる費用は、手数料として3,900円必要となります。

3.検認が不要
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所の検認がなければ有効な遺言書とはなりません。
法務局の保管制度を利用した場合、家庭裁判所の検認を経ずに有効な遺言書となります。

4.形式面での不備がなくなる
保管制度を利用した場合、法務局での形式面の確認をしてもらえます。
形式面の確認とは、日付・氏名の自署・押印の有無などです。
そのため、形式面での不備で無効になることを防ぐことが出来ます。

しかし、法務局での確認はあくまで「形式面」にとどまるため、内容に関しては確認されません。
そのため、内容面での不備がある場合には、遺言書として無効となる点は注意が必要です。
内容面での不備とは、例えば、不動産の住所が特定されていない、受遺者(財産を受け取る人)が特定されていない、といった内容です。

5.遺言書の検索が可能
遺言者が亡くなった後、相続人などの一定の関係者は、法務局で保管された遺言書の有無を確認することができます。
全国のどこの法務局にあっても検索可能です。

まとめ

・自筆証書遺言は、紙・ペン・印鑑があれば一人で作成可能
・自筆証書遺言のメリットは、作成費用が安い・作成時の証人不要・遺言書の存在を知られずに済む
・一方のデメリットは、遺言書の不備による無効・紛失偽造のおそれ・家庭裁判所の検認が必要
・作成に必要な要件があり、満たしていない場合、その遺言書は無効となる
・不備による無効・紛失偽造を防ぐ「法務局での遺言書保管制度」がある

自筆証書遺言は法律によって作成要件が決まっています。
その要件を満たしていない場合、せっかく作成した遺言書が無効となり、遺言者の意思が実現しません。
ご自身で作成される場合には、くれぐれも要件に注意して作成しましょう。
自筆証書遺言作成に不安やお悩みがある場合には、名古屋市熱田区にあります合同会社SBNにご相談下さい。
親切丁寧に対応させて頂きます。

参考
法務省 https://www.moj.go.jp/
日本公証人連合会 https://www.koshonin.gr.jp/
裁判所 https://www.courts.go.jp/index.html