今回は「遺言書」についてお話ししたいと思います。
ご自身がご病気になったときや定年を迎えてご自身の老後を考えたとき、あるいは親族の相続
で実際に相続争いの現場を経験した等、様々なことをきっかけに、遺言書の作成を考える方がいらっしゃいます。
しかし、実際には、遺言書の作成は自分に必要なのか、どんな種類のものがあるかなど、分からないことが多く、行動に踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
今回のお話では、初めて遺言書について調べた方でも分かりやすいように、基本的な情報をお伝えしていきます。
これを読んで頂ければ、遺言書の基本的なことが分かり、実際に作成するきっかけになります。
遺言書を作成する目的
遺言書を一言で説明すると、「自分が亡くなった後、自分の財産を誰にどのように遺すかを指定
するための書面」です。
そのため、遺言書を作成する目的も、財産の分け方に関して、財産を遺す人の意志が実現するため、ということになります。
では、遺言書を作成した方が良い方というのは、どのような方なのでしょうか。
具体的には次のような方を想定しています。
① 財産の配分を変えたい方
② 法定相続人以外の人に財産を残したい方
③ 法定相続人がいない方
④ 相続をさせたくない方がいる方
ひとつずつ、もう少し詳しくみてきます。
財産の配分を変えたい方
亡くなった方の財産を引き継ぐ場合(相続)、民法という法律によって、誰がどのような割合(相続割合)で引き継ぐかが明確に決まっています。
被相続人(財産を遺す方)との関係と人数によって異なり、具体的には以下の通りです。
法定相続割合
1.配偶者のみ → 全財産を相続
2.配偶者と子供 → 配偶者1/2 子供1/2
3.配偶者と父母 → 配偶者2/3 父母1/3
4.配偶者と兄弟姉妹 → 配偶者1/4 兄弟姉妹3/4
このように、法律で相続割合が決まっている人を「法定相続人」といいます。
ご覧の通り、配偶者は常に相続人となります。
配偶者以外の相続人に関しては、優先順位が決められており、第1順位:子供、第2順位:父母、第3順位:兄弟姉妹となっております。
順位が高い方が相続人になるため、自分より順位が上の方がいる場合には相続できません。
例えば、亡くなった方に両親・妻・子供がいる場合、相続人は「妻」「子供」となります。
このとき、亡くなった方の両親は、相続人とはなりません(自分より優先順位の高い「子供」がいるため)。
また、上記の相続割合は、人数によって内訳が変わってきます。
例えば、妻と1人の子供の場合はそれぞれ1/2ずつの相続割合となります。
しかし、妻と2人の子供(仮に子供①子供②とします)に場合には、まず妻が1/2となり、残り1/2を子供二人で等分する形になります。
そのため、最終的な相続割合は、妻1/2・子供①1/4・子供②1/4となります。
このように、法律で相続割合が決まっていますが、この割合を変えたい場合には遺言書の作成が有効です。
例えば、1000万の相続財産を妻と子供に相続させる場合、法律通りであれば妻・子供で500万ずつの相続割合ですが、どちらかに多く遺してあげたいという意志があるのであれば、それを遺言書に明記することにより、被相続人の意志通りの財産配分が実現します(ただし、相続には「遺留分」があるため、内容によっては実現できない場合があります。
遺留分とは、相続人が最低限相続できる権利を保証する制度のことです)。
法定相続人以外の人に財産を残したい方
①で説明したように、法律によって相続できる人(法定相続人)が決められているため、それ以外の方には相続できる権利はありません。
しかし、実際には、法定相続人以外の方に対して財産を遺したいとお考えの方もいらっしゃいます。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
1.養子縁組をしていない、配偶者の連れ子
2.内縁の妻(夫)
3.世話をしてくれた甥・姪(優先順位の高い法定相続人がいる場合)
上記のケースでは、いずれも法定相続人にはならない為、何も対策をしなければ財産を相続することはできません(3.のケースは法定相続人がいない場合)。
このような場合、遺言書の作成をすることによって、これらの人に対して財産を遺す事が可能になります(ただし、①でも説明したように、遺留分には注意が必要です)。
法定相続人がいない方
①で説明した法定相続人がいない場合、民法には「遺産は国庫に帰属される」と規定されています。
そのため、遺言書の作成をしていない場合、財産は国のものとなり、例えば内縁の妻(夫)や世話をしてくれた方などへは財産は渡らないことになります(ただし、特別縁故者として認められれば相続可能ですが、家庭裁判所に申立を行った上で特別縁故者として認められる必要があります)。
これを防ぐためにも、予め遺言書を作成することで、確実に財産を渡すことが可能になります。
相続をさせたくない方がいる方
遺言書の作成を行わない場合、法定相続人に対して、法定相続割合の通りに相続が発生します。
しかし、中には法定相続人に対して財産を渡したくない方もいらっしゃいます。
例えば、離婚をした方が、前妻の子供に相続をさせたくない場合などです。
このような場合にも、遺言書の作成をすることで、相続分を減らすことができます(この場合も遺留分があるので、遺言書の作成によって相続分を全て無くすことまではできません)。
遺言書の種類
次に、遺言書にはどのような種類があるかについてもお伝え致します。
遺言書は3種類あり、以下の通りです。
① 自筆証書遺言
② 公正証書遺言
③ 秘密証書遺言
それぞれの内容・メリット・デメリットを記載していきます。
自筆証書遺言
遺言者(遺言書を作成し財産を遺す方)が紙とペンを使って自筆で遺言書を作成する方法です。
特別な手続きが何も必要ありません。
遺言者が、遺言全文・日付・氏名を自書し、押印をすることで、遺言としての効力が認められることになります。
メリット
・特別な手続きは不要。一人で時間・場所を問わず作成可能
デメリット
・個人で管理するため、偽造や紛失のリスクがある
・内容に不備がある場合、遺言書が無効になる可能性がある
・遺言者の死後、家庭裁判所での検認手続きが必要
*自筆証書遺言保管制度
これは、遺言者が作成した自筆証書遺言書を、法務局が保管してくれる制度です。
2020年7月10日より始まったこの制度は、これまでの自筆証書遺言の課題を解決する効果が期待できるものです。
メリット
・法務局が保管することで、遺言書の紛失・隠匿・改ざんを防げる
・法務局が遺言書の形式要件を確認するため、形式不備による遺言書の無効を防げる
・家庭裁判所の検認手続が不要
デメリット
・遺言書の内容(財産の配分や、記載していない財産がないかなど)のチェックはされない
・法務局へ行く時間・手間
公正証書遺言
証人立会いの下、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言のことです。
メリット
・公証人によって作成されるため、不備が生じる可能性が非常に低い
・公証役場にて保管されるため、偽造・紛失の心配がない
・家庭裁判所での検認手続が不要
デメリット
・公証役場に申請する必要があり、時間と手間がかかる
・作成に費用がかかる
秘密証書遺言
遺言書の内容を秘密にした状態で、公証役場にて、遺言書の存在自体を証明してもらう遺言のことをいいます。
メリット
・遺言書の内容を他人に見られないで済む
・公証人によって封に署名されるため、偽造・改ざんの恐れがない
デメリット
・自分で保管しなければならず、紛失の恐れがある
・遺言者以外内容を確認できないため、不備で無効になる恐れがある
・家庭裁判所の検認手続は必要
最後に
実際の遺言書の作成の場面では、相続財産や法定相続人の特定など、やるべきことがいくつかあります。
ご自身で難しいと感じるときは専門家の力を借りることも検討してみて下さい。
確実に大切な人に財産を渡すためにも、早めの検討をおすすめ致します。
参考
法務省 自筆証書遺言書保管制度 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
日本公証人連合会 https://www.koshonin.gr.jp/