本ブログ「2021年9月9日 認知症になったら不動産売買は出来るのか~不動産の終活方法とタイミングについて~」にて、成年後見制度にも法定後見制度と任意後見制度と二種類あることを記載しました。両者の違いは、制度を利用するタイミングでの本人の判断能力の有無ですが、今日は本人の判断能力が無い場合に利用する法定後見制度について、もう少し詳しくお話ししていきたいと思います。

法定後見制度とは

法定後見制度は、「精神上の障害により事理弁識能力が不十分・著しく不十分・欠く常況」にある方、つまりすでに判断能力が低下している方がご利用する制度です。ここにある、精神上の障害は、身体上の障害を除くすべての精神的障害を含み、「認知症」・「統合失調症」・「高次脳機能障害」・「知的障害」・「精神障害」の他、「自閉症」・「事故による脳の損傷」・「脳の疾患」を原因とする精神的障害も含まれます。

本人が後見人を決め契約し、後見開始および後見人選任の申立てを行い、家庭裁判所が後見人を決定した後、後見人などが、認知症などによって判断能力が低下した本人に代わり、財産管理や法律行為を行う制度のことをいいます。

また後見人は家庭裁判所に報告義務があり、その監督を受けます。

ここでいう後見人などというのは、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に区分されます。

判断能力の分け方

上記判断能力といえども、その程度の度合いは人様々です。

本人の判断能力が3区分のどれに該当するかは、本人や申立人が自由に選ぶことはできません。申立時に添付するかかり付け医等による診断書を目安にし、最終的には医師の鑑定に基づいて家庭裁判所が決定しますが、判断能力の欠如が著しい順に「後見」「保佐」「補助」と、分類されています。

「後見」「保佐」「補助」について

後見について

判断能力の欠如が著しいといわれる後見については、日常の買い物も一人ではできなければ、当然ながら財産の管理や処分についても自分では判断できない状態の方を対象とします。この場合、本人は成年被後見人となり、本人の援助者として成年後見人が選任されます。その援助者として選任された成年後見人は、本人に代わって本人の財産を管理し、本人のための介護サービス契約を締結するなど、本人に代わって法律行為をする権限が与えらます。

また、本人(成年被後見人)がした行為は、日常生活に関するものを除き、すべて取り消すことができます。例えば、本人が不動産を購入しても、それを後から取り消すことができるわけです。

後見類型は、成年後見制度の中で最も利用者数が多い類型であり、利用者全体の約8割を占めています。

【具体的な例】

20年前に統合失調症を発症し、15年前から入院。徐々に判断能力が低下し、障害認定1級を受け障害年金から医療費を支出。本人の家族構成は母一人子一人だが、母が半年前に死亡したため、親族は母方の叔母のみ。亡母が残した自宅やアパートを相続し、その管理を行う必要があるため、母方の叔が後見開始の審判の申立て。親族が遠方&高齢で後見人に就任することが困難であり、相続登記など専門知識を要する後見事務が想定されるため専門職の選任が適切と裁判所が判断し、司法書士の選任となった。

保佐について

二番目に判断能力の欠如が著しいといわれる保佐については、「事理弁識能力が著しく不十分な」人、すなわち日常の買い物はできていても、不動産の売買など重要な取引行為は一人ではできない方を対象とします。この場合、本人は被保佐人となり、本人の援助者として保佐人が選任されます。

その援助者として選任された保佐人は、法律で定められている重要な行為を行うときに、本人がした意思決定に同意をすることで初めてその法律行為が有効となるもので、原則として民法13条1項所定の行為のほか、申立てにより裁判所が定める行為についての同意権と取消権はありますが、代理権については保佐開始の審判時に当然に付与されるものではなく、裁判所に申し立てることにより代理権を持つことが出来ることとなっています。ここでいう民法13条1項所定の行為とは、

(1)貸金の元本の領収し、又は利用すること

(2)金銭を借り入れたり、保証人になること

(3)不動産をはじめとする重要な財産について、権利の得喪を目的とする行為をすること

(4)民事訴訟で原告となる訴訟行為をすること

(5)贈与すること、和解・仲裁合意をすること

(6)相続の承認・放棄をしたり、遺産分割をすること

(7)贈与・遺贈を拒絶したり、不利な条件がついた贈与や遺贈を受けること

(8)新築・改築・増築又は大修繕をすること

(9)一定の期間を超える賃貸借契約をすること

と、なっています。

保佐類型は、成年後見制度の中で二番目に利用者数が多い類型でありますが、利用者全体の約1.5割となっています。

【具体的な例】

本人は1年前に夫を亡くしてから一人暮らしをしているが、以前から物忘れがみられ最近症状が進み、買物の際にいくら出したかわからなくなることが多くなり、日常生活に支障が出てきたため、中程度の認知症の症状と判断し、長男家族と同居。持ち家の老朽化が心配になり、売却を自身で進めることは困難なため、長男が保佐人に選任となり、許可の審判を受け、自宅を売却する手続を進めた。

補助について

三番目に判断能力の欠如が著しいといわれる補助については、言い換えれば3類型の中では最も軽い類型に当たりますが、「事理弁識能力が不十分な」人、すなわち不動産の売買など重要な取引行為を一人でするには不安がある場合など、保佐を受けるほどではない程度の判断能力の人を対象とします。日常生活については特に問題ない場合が多く、ゆえに補助類型では、本人が一人で行うのは難しい事案について、必要な範囲で個別に権限を付与して、支援する場合に利用されています。この場合、本人は被補助人となり、本人の援助者として補助人が選任されます。

その援助者として選任された補助人は、被後見人や被保佐人に比べれば不十分ながらも判断能力があるため、本人に対する援助の範囲を本人が選択できるという観点から、同意権や代理権が当然にあるものではありません。補助開始の申し立てはもちろんのこと、それとは別に補助人に「特定」の法律行為についての同意権や代理権について申し立てをしなければなりません。そしてその権利を付与するには、その内容につき本人の同意も必要となります。

ここでいう同意権の「特定」の法律行為とは、前述保佐人の法律行為であった民法13条1項所定の行為のうちの一部となっており、保佐人のように全ての行為ができる訳ではありません。保佐人の同意を得ることを要する行為の中の一部に限定されるということです。

申し立てについては、①同意権のみ②代理権のみ③同意権代理権の両方と三パターンが可能で、必要に応じて申し立てすることになります。また、申し立てをしていない法律行為についてについて同意を得ずにした行為であっても、被補助人が追認すれば有効な行為にもなります。

補助類型は、成年後見制度の中で最も利用者数が少なく、利用者全体の約0.5割程度です。

【具体的な例】

本人はお米を研がずに炊いてしまうなど、家事の失敗がみられるようになり、また貸金業者からの借金を繰り返すようになっていたため、軽度の認知症の症状と判断し、不安になった本人が自ら長男に相談。長男が補助人に選任され、本人が長男に相談せずに、貸金業者から借金をしたような場合には、長男が契約を取り消すことができる同意権が与えられた。

まとめ

・法定後見制度は、大きく2種類ある成年後見制度で、本人の判断能力による3つに区分される

・判断能力区分は、最終的には医師の鑑定に基づいて家庭裁判所が決定する

・判断能力の著しさに応じて区分が異なるため、判断能力が著しいほど権限が与えられる

超高齢化社会を迎える今、法定後見人制度の利用ケースも増えてくることかと思います。認知症になったからといえ、程度については人それぞれ違い制度利用も異なってきます。

特に相続登記など専門知識を要することが想定される場合や、終活全般に関してお悩みがある場合には、名古屋市熱田区の合同会社SBNに一度ご相談下さい。親切丁寧に対応させて頂きます。

参考:法定後見の3類型(後見・保佐・補助) | 地域後見推進プロジェクト (kouken-pj.org)

法定後見制度とは(手続の流れ) | 成年後見制度利用促進のご案内|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

法定後見制度と任意後見制度 成年後見制度とは 名古屋市成年後見あんしんセンター (nagoya-seinenkouken.jp)