日本では高齢化が進み、それに伴って認知症患者数も増加しています。2020年の65歳以上の高齢者の認知症数は約602万人となっており、6人に1人程度が認知症有病者と言えます。
認知症はさまざな原因により脳細胞が死んだり働きが悪くなり、記憶・判断力の障害が起こることにより生活に支障をきたす病気で、加齢によるもの忘れとは大きく違います。認知症は年齢が高くなるほど発症しやすく、日本では今後さらに認知症患者が増えると言われています。

認知症を発症し判断能力がないと診断されると、本人の銀行口座は凍結され財産管理ができなくなります。結果、お金・不動産・相続の対策が取れず、家族の悩みの種となることも考えられるのです。
認知症は突然訪れるものではありませんが、万が一に備えて心も身体も元気なうちに終活をすすめ、身じたくを整えて置けることが理想的です。

今回の記事では、認知症を患うことも想定して行っておくと安心できる終活について、ご紹介していきます。

認知症を発症するとどんな症状が出るの?

一般的に認知症と言うと、もの忘れや徘徊を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし他にも様々な症状が見られます。それを理解し、症状が軽い段階のうちに認知症であることに気づけると、適切な治療が受けられる可能性が高くなります。薬で認知症の進行を遅らせたり、場合によっては症状を改善したりすることも期待できます。
気付くのが遅れ症状が進行してしまうと対応がより難しくなるので、家族や周囲の人が初期症状に気づくことはとても大切なことなのです。

加齢が進めば、誰でも思い出したいことがすぐに思い出せなかったり、新しいことを覚えるのが困難になったりしますが、認知症はこのような加齢によるもの忘れとは違います。例えば、体験したこと自体を忘れてしまったり、もの忘れの自覚がなかったりする場合は、認知症の可能性があります。
認知症には、「中核症状」と「行動・心理症状」の二つの症状があります。

中核症状とは、脳の神経細胞が死んでいくことによって直接発生するような症状です。
・新しいことを記憶できず、ついさっき聞いたことさえ思い出せなくなる
・時間や季節感の感覚が薄れ、迷子になったり遠くに歩いて行こうとしたりするようになる
・自分の年齢がわからなくなる

・予想外の変化などに対応できない
・買い物で同じものを購入してしまう
・料理を並行して進められない


心理面・行動面の症状とは、本人の性格や環境、人間関係などの要因がからみ合って起こるうつ状態や妄想といった症状です。
・元気がなくなり引っ込み思案になる
・出来ないことが増え自信を失い、すべてが面倒になる
・探し物などをする際、誰かが盗ったなど人のせいにすることがある
・物事を大袈裟に捉え訴えたり、行動にちぐはぐが見られ徘徊をする

認知症を発症するとこのような症状がすこしずつみられるようにようになります。

将来、認知症を発症すると困ることとは?

認知症になると、当たり前のようにできていたことができなくなってきます。
一人で自立した生活が困難になるため、家族に介護などで大きな負担をかける心配もあります。また、高齢者施設などによっては退去を迫られる可能性もあるのです。

特に問題になりやすい項目として挙げられるのが、お金の管理です。

・預貯金や不動産など自身の財産を把握できない
・自分の生活に必要な金銭の管理ができず、無駄遣いなどをしてしまう
・契約などが必要な場面で正常な判断ができない
・詐欺などの被害にあう危険性が高まる

安心してお金の管理を任せられる信頼できる人が近くにいるのであれば、問題はそれほど大きなものではないかもしれません。
しかし、家族の仲があまりよくない、お金の管理を任せることが心配、おひとりさまといった場合にはあらかじめの対策が必要と言えるでしょう。

家族信託と成年後見制度

死後の口座凍結だけでなく、認知症で判断能力がない場合などは原則お金を下ろせなくなります。不動産の手続きも同様です。「生活費や介護、入院の費用が下ろせない」「不動産を売却したお金で介護付き高齢者施設へ入居する」などの対応ができないという状況になりかねません。
事前に何も対策をしていないと、事態に直面した家族への負担は増えるばかりです。

万が一、認知症を発症した場合でも手続きを滞りなく行えるための制度が、
「家族信託」と「成年後見制度」です。
二つの違いについてご紹介していきます。

家族信託とは?

認知症になっても、高額な費用をかけず家族で財産管理をしたい。そこで生まれたのが「家族信託」という制度です。

家族信託は、認知症による財産凍結や相続に備えて、預金や不動産の管理方法、承継方法を家族間で取り決めておく仕組みのこと。親(委託者)が子など(委託者)に財産の管理を任せ、その利益を受益者として親が今までどおり得ることができます。
自分の考えを整理し、意思を家族に伝えると共に、財産の洗い出しや整理、相続などを考えることで、それに付随してやるべき終活の項目が明確になるかもしれません。また、子の視点に立った時、家族から親に遺言や相続の話を持ちかけられると嫌がることもあると思いますが、財産を管理するというスタートであればスムーズに話を進められるかもしれません。

家族信託のデメリットとしては、
契約後は元気でもすぐに制度が始まることから、事前に家族との意思の疎通を図り、希望を伝えておくなどの信頼関係を築けていることが大前提と言えます。
また、項目によっては成年後見制度や遺言でしかできないこともあることは認識しておく必要があります。

★家族信託についての詳しい記事はこちら
 → 家族信託とは

成年後見制度とは?

成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。

・任意後見制度
本人が心身ともに健康な状態の時に、自身で選んだ人に、後見人として代わってやってほしいことについて公証役場で契約書を作成しておきます。
実際に判断能力が低下した際に、後見人になる人や親族などが家庭裁判所に申し立てることで利用できます。

★任意後見制度についての詳しい記事はこちら
 → 本人の判断能力が有る無しで変わる?2種類の成年後見制度~その②任意後見制度について~

・法定後見制度
すでに認知症などを発症しており、判断能力が不十分な方に対して、法的に権利を支援・保護するための制度です。
家庭裁判所に申し立てをして、後見人が選ばれます。

★法定後見制度についての詳しい記事はこちら
 → 本人の判断能力が有る無しで変わる?2種類の成年後見制度~その①法定後見制度について~

成年後見制度のデメリットとしては、
不要な不動産を売却したり、預貯金などの資産を運用するなどのことはできません。不動産の売却代金が本人に必要な場合などは、家庭裁判所に申し立てをして承認を得る必要があります。
また、後見人は一度引き受けると、原則として辞めることは認められないため、身内や知人の方などに依頼する場合はきちんと納得した上で引き受けてもらうようにしましょう。

家族信託と成年後見制度は目的が違います

家族信託と成年後見制度は、「他の人に財産の管理を任せる」という点では共通しますが、そもそも目的や開始時期などが異なります。
家族信託は「判断能力が低下した時に備えて、信頼できる家族に財産を託す制度」である一方で、後見人制度は「判断能力が低下しても、生活する上で不利益のないよう援助をしてもらう制度」です。

家族信託でできること、できないこと、後見人制度でできること、できないこと、それぞれのメリットがありますので、併用する方が良い場合もあるかもしれません。
また費用面でも負担が変わったきますので、ご自身にあった制度はどちらなのかよく検討しましょう。

まとめ

・高齢化が進む中で、認知症の発症は誰にでも起きうる可能性がある
・財産の管理について考えることで、結果的に自分に必要な終活についても洗い出しが行えるが期待できるので、
 心身ともに健康なうちに早めに取り掛かるのが良い
・家族信託と成年後見制度のどちらが自身に合っているのか専門家に相談してみるのもおすすめ

認知症といっても、どのような症状が表れるかは個人差が大きく、様々な状況が考えられます。ご家族が症状を受け止め、適切な支援を受けながらうまく付き合っていくことが必要となります。
できるだけご家族の負担を減らし、またご自身の希望や要望を明確にしておくことがより自分らしいセカンドライフを送ることに繋がるのではないでしょうか。

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