家族信託とは


家族信託とは、自分に老後や認知症等による判断能力の低下に備え、自分が保有している不動産や株式といった財産の管理・処分を家族に任せる財産管理方法のことを言います。

家族による家族のための財産管理方法と言えます。
この方法は、認知症等による判断能力の低下が開始要件となる「成年後見制度」や、作成に心理的な抵抗のある「遺言書」に代わる資産管理・承継方法として大変注目されている制度です。

日本国内では平均寿命が男女ともに過去最高を更新し続けています。

加えて、65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来推計についてみると、
平成24(2012)年は認知症患者数が462万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15.0%)で
あったが、37(2025)年には約700万人、5人に1人になると見込まれており1、高齢者の財産管理の問題
は今後も増加してくることが見込まれます。

終活に関する事柄全てに共通することとして、少しでも早くに準備をする。これこそが、大切な家族や財産を守る事につながります。少しでも気になるのであれば、専門家に相談し、早めの対策を講じるようにしましょう。

◆メリット
家族信託の主なメリットは以下の通りです。家族信託に類似した制度がありますので、比較しな
がら見ていくと、より理解しやすくなります。

①柔軟な財産管理が可能
財産管理の方法として家族信託よりも先に思い浮かぶものとして「成年後見制度」があります。こ
れは、認知症などにより判断能力が不十分な人が、生活をする上で不利益を被らないよう、「成
年後見人」が本人の代わりに適切な財産管理や契約行為の支援を行うための制度のことを言い
ます。

成年後見人の場合、財産の処分は本人(被後見人)のための行為でなければなりません。
原則として、財産を維持しながら本人のためにのみ支出すること

(または、扶養義務者への支出)だけが認められています。

そのため、積極的な運用や、本人にメリットのない売却をすることができないのはもちろん、財産の減少につながる生前贈与もできません。

このように制限のある成年後見制度に対し、家族信託は非常に柔軟な制度となっております。

家族信託の受託者(本人から委託を受けた家族)は、受託者の責任において、目的の範囲内で自由に運用や処分をすることができます。不動産の処分であっても、登記上の受託者が便宜上の所有者として取引を行
うことができます。

②二次相続以降の資産承継者の指定が可能
自分の死後の財産をどのように分けるかについては、遺言書を書く事によって、財産を残す人の意思を
実現することができます。しかし、二次相続(自分が亡くなり、財産を相続することを一次相続といいま
す。二次相続とは、一次相続をした人が亡くなった後にする相続を言います)については遺言書で指定
することができません。

その時に有効な方法として、家族信託が挙げられます。家族信託の場合、例えば、
「妻(一次相続人)が亡くなった場合、子供(二次相続人)に相続させる」というように、二次相続以降
の財産の承継先を指定することができます。これは、家族信託が「契約」であるため、当事者間で自由
にその内容を決められるために実現可能なのです。

③親族間での共有不動産に関するトラブル防止
相続でトラブルになりやすいものとして、不動産の相続があります。
これは、相続財産を平等に分割できればトラブルになりにくいところ、
不動産は平等に分割するのが難しいからです。

例えば、
親の世話や介護で長年実家に同居していた場合や、二世帯住宅を建てて親と同じ建物に居住し
ていた場合などは、親が亡くなったら自分が実家の不動産を相続できると誤解してしまうことがあります。この場合、実家を売却したい親族と、実家に住み続けたい親族とで争いになる可能性があります。

また、共有不動産を売却したり、共有している土地に建物を建築したりするには共有者の全員の同意が必要になるので、共有者間で意見が食い違うと、不動産を思うように処分・活用できないというケースが発生します。
このようなことを防ぐ手段が家族信託です。

具体的には、不動産の所有者が判断能力がある元気な状態のうちに、対象不動産を信託財産として設定し、家族のだれかを受託者として指定。
これにより、委託者の意向に沿って不動産の管理、処分をすることが可能になります。
家族信託では、名義上は受託者に土地の所有権が移ることになり、意思決定も受託者に集約されます。
そのため、不動産共有の場合のように共有者の意思が合致せず、不動産が思うように活用、処分できなくなるような問題が生じません。

具体的な手続き方法


次に、家族信託を行うための手続きについてお話しします。手続きは以下の流れで進めていきま
す。
①信託の目的を決める
家族信託では、信託目的を実現するために信託財産の管理や処分を行われ、受託者が信託目
的に反する行為をすることは禁じられています。

そのため、目的はできるだけわかりやすく、また明確にしておく必要があります。

家族信託を行う目的の例としては

「認知症などにより、自分の判断能力が低下する前に、子供に財産の管理運用処分の権限を託したい」

「現在所有している共有不動産について、窓口を一人にまとめたい」などがあります。


②信託契約の内容を決める
信託契約の内容は、①で決めた家族信託する目的を実現するために必要な内容でなければな
りません。主に決めておくべき項目を以下に挙げていきます。


1.信託の目的


2.委託者 財産を預ける人(=財産の現所有者です。)


3.受託者 財産を預かって管理する人です。


4.受益者 信託財産から経済的な利益を受け取る人(=財産の現所有者となることが多いです。)


5.第二受託者 当初の受託者が何らかの事情により、財産管理できなくなった場合に備え、次に信託財産の管理を行う人を定めておきます。


6.第二受益者 当初の受益者が亡くなっても、信託契約を継続させたいとき次に受益権を
持つことになる人を定めておきます。


7.信託財産 信託として預ける財産(不動産、現金、未上場株が中心)を定めます。


8.委託者の地位権利 委託者の地位や権利について定めます。相続トラブル防止や税金の
減税適用に関し重要な条項です。


9.信託内容 信託財産の管理運用処分の詳しい内容や方針について、詳しく決めておき
ます。例えば「看護療養費用の支払方法」「不動産の活用に関する具体的な方針」などについて決めておくことができます。


10.受託者の権限義務 信託の詳しい内容や方針に対応できる権限を受託者が持っていることを明文化しておきます。

例えば「金融機関からの借入れについての権限」などです。そのほか「自己の財産と信託財産を分別して管理しなければならない義務」などについても明文化
しておくことができます。


11.信託の終了 信託契約を終了させる事由を決めておくこと。「当初の受益者が死亡するまで」など、信託契約を終了させる事由を決めておくことができます。


12.残余財産の帰属先 信託終了後に信託財産を取得する人。現時点で決めれない場合は
「相続人で協議する」としておくこともできます。


③信託契約内容の書面(信託契約書)を作成
契約は、法律上は口頭でも成立するものですが、内容を明確にしておくために、必ず書面にして
おきましょう。信託契約書を作成するうえで、法律上決められた方式などは特にありませんが、信
託契約は財産上の重要な契約ですから、公正証書にしておいた方が安心です。公正証書につい
ては次の④で詳しくお話しします。


④信託契約書を公正証書にする
公正証書とは、契約の成立や一定の事実等、一定の事項について、公証人が書証として作成
し、 内容を証明する書類のことをいいます。公正証書の作成手続は、公証人法という法律によ
り、厳格に規定されています。公正証書を勧める理由としては、公証人が文章の確認をするので
誤字や表記間違いがない、公証人が当事者の意思確認をするので、相続人間などで後日の紛
争になりにくい、などがあります。公正証書を作成する場合は、お近くの公証人役場に連絡をしま
しょう。なお、公正証書には作成費用がかかりますのでご注意ください。


⑤不動産の名義変更
不動産を信託した場合は、所有者名義を委託者から受託者に変更しなければなりません。
契約締結後すみやかに不動産の名義変更手続きを行いましょう。不動産の名義変更手続
きは、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。名義変更にも費用がかかります。


⑥信託専用口座の開設と送金
預貯金はそのままでは信託財産にはなりません。委託者の預貯金から出金した現金を、
受託者が管理する信託管理用口座に入金したものが、信託財産となります。信託契約書
を作成したら、まず信託管理用口座を開設する予定の金融機関に連絡をして、打ち合わせ
をします。その後、事前に打ち合わせをした金融機関に信託契約書を持参して、信託管理
用口座を開設し、信託契約書で定めた金銭を入金します。このとき、委託者の口座から出
金できるのは委託者だけです。受託者は、委託者の個人名義の口座から金銭を出金する
ことはできないので、注意してください。


家族信託が開始するタイミング


家族信託は、委託者と受託者とのあいだで信託契約が結ばれた時点から効力が開始します。こ
の点、本人の判断能力の低下が開始要件となる成年後見制度と異なります。これにより、本人と
しても家族としても、財産を守る事につながり、安心できますね。ぜひ、家族信託の利用を検討し
てみてください。