本ブログ「2021年9月9日 認知症になったら不動産売買は出来るのか~不動産の終活方法とタイミングについて~」にて、成年後見人制度にも法定後見制度と任意後見制度と二種類あることを記載しました。両者の違いは、制度を利用するタイミングでの本人の判断能力の有無ですが、今日は本人の判断能力が有る場合に利用する任意後見制度の人選から契約内容までについて、お話ししていきたいと思います。

※判断能力が無い場合に利用する法定後見制度については、前回記事をご覧ください。

任意後見制度とは

任意後見制度は、まだ自分で判断ができるうちに、自分の判断能力が衰えてきた時に備えて、あらかじめ支援者(任意後見人)を誰にするか、将来の財産管理や身の回りのことについてその人に何を支援してもらうか、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておくことができる仕組みです。

現状では老化や認知症などは見られない場合はもちろんのこと、脳梗塞などの突発的な事故で脳に損傷を受けてしまってからでは、特に独居老人の方で身寄りがないなど、頼る人がすぐ側にいない場合に備えて、今のうちから頼れる人を作っておこうとする人のためのものです。

流れとしては、あらかじめ任意後見人と依頼する内容をご自分で決め、その方と公証役場で公正証書により「任意後見契約」を締結します。

また、任意後見人が後見人として活動を始めるのは、法定後見人と同じように本人が判断能力不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してからになるため、まだ判断能力があるうちにその効力が発揮されることはありません。

どんな人に頼めばいいの?

基本的には、法律で任意後見人としてふさわしくないと定めている理由がない限り、成人であれば誰でも任意後見人になることができます。また、後見業務の専門である弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家や、社会福祉法人などの法人を任意後見人にすることもできます。身寄りの人がいる場合、自分の子どもや孫はもちろん、交流があり親しくしている信用のおける友人などでも構いません。また、一つの任意後見契約につき一名という決まりはあるものの、共同行使の場合を除き、別個の契約においては違う方を選任することもできるため、複数の任意後見人の選任が可能です。

支援者を選ぶという事はその方に財産管理をしてもらう観点から、その役目を果たせるかどうかが大きく関わってきます。信頼でき、浪費癖のない人を選ぶのはもちろんのこと、契約内容によっては専門家をつける方が安心できることも考えられますし、自分が高齢だった場合は同世代の友人などに頼むのは、先行きを考えると安心とはいえません。

十分に検討して、この人なら任せても安心と思える人に支援をお願いしましょう。

任意後見人に何を頼める?

委任内容については大きく2つあり①財産管理に関する法律行為②身上監護に関する法律行為となっています。

任意後見契約は法定後見より柔軟性が高く、契約の内容は自由に決められます。そのため、どのような支援をしてほしいのか本人が考え、状況に合わせて内容を細かく調整できます。ただし、法律違反となるものは当然ながら無効となります。

それぞれの主な利用例として…

①財産管理に関する法律行為

・財産の保存・管理

・金融機関との取引

・定期的な収入の受領、定期的な支出・費用の支払い

②身上監護に関する法律行為

・郵便物の受領

・介護契約、その他福祉サービスの利用契約

・医療契約、入院契約に関すること

等が、あります。

しかし、死亡後の葬儀、相続手続きや、実際の介護等を行って頂くことは出来ない他、手術・臓器移植等の同意もできません。

委任内容については、できるできないを確認してからにしましょう。

任意後見契約にも3類型

前項の任意後見人への依頼内容が決まったところで、任意後見人への報酬を話し合ったうえ、本人と任意後見受任者(依頼された人)が一緒に公証役場に行き、任意後見契約書を結ぶことになります。

但し、前述のとおり、任意後見契約については本人の判断能力が不十分になってから効力を発揮するとなっているため、任意後見契約には、本人の生活状態や健康状態を勘案し、「即効型」「将来型」「移行型」の、3つのタイプから本人が選択することができます。

即効型について

すでに判断能力の低下がみられるが、完全に低下したとは言えないような状態の人が、任意後見契約を締結してからすぐに任意後見監督人選任の申立てを行う形態のことです。

つまり、まだこの時点では契約を締結する判断は自身で持っているということです。しかし、任意後見契約締結から効力が発揮されるまで時間があまりないような状況になるため、まだ本人が判断能力も清明なうちに準備しておくのが理想ではありますが、自分の衰えを認識しつつも、いざ他人に財産を任せようとするとなかなか決心がつかないものです。そうこうするうちに、認知症の症状が出始め、即効型を利用する方が多いようですが、すでに症状が進行している場合には利用できなくなるため注意が必要です。

その場合選択しとしては、法定後見を選ぶことも可能ですが、法定後見においては事前に本人が自分で支援を受ける範囲を決めることが困難となるため、この即効型を選ぶ方もいるようです。実際には任意後見契約の中でも約1程度で、実例としても少な目です。

将来型について

その名の通り、現時点では判断能力の衰えがなく、将来本人の判断能力が衰えた場合に備えて、任意後見契約を締結する場合です。この時点では財産管理契約(任意代理契約)は結ばず、定期的に連絡だけを取りながら将来の発効を待つ形態で、任意後見で最もシンプルなプランであり、本来の任意後見契約といえます。

判断能力の衰えも身体能力の衰えもなく、本人が自律的に判断・行動できる場合には有用な制度です。ただし、本人の判断能力が衰えた場合、そのことを把握できる立場の人が存在しない可能性があることから、任意後見契約の発動が遅れるリスクもあります。日常的にサポートする態勢が整っており、身上介護や財産管理などの契約は自身でできるけれども、念のため将来に備えて将来型の任意後見契約を締結しようとする場合が多く、任意後見契約では約1割前後の利用実態です。 

移行型について

本人の判断能力には問題がないが、将来の判断能力の低下に備えて任意後見に移行するような場合のほか、本人の体が不自由で外出が困難な場合、受任者に本人の代理人として預貯金の預入れ、払戻し、入院契約、介護契約をするような際に委任契約を締結するような場合に利用されます。その場合は、判断能力が衰えた場合受任者において、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てて、任意後見監督人が選任された時点で委任契約が終了し、それと同時に任意後見契約に移行し、受任者がそのまま任意後見人になります。

3つのタイプの中でも、委任契約から任意後見契約にスムーズに移行することができる観点からも任意後見制度の良さが発揮できるタイプです。反面、本人の判断能力が衰えた場合でも受任者が任意後見監督人選任の申立てをしないまま、長期間本人の財産を管理し、その管理が不適切であったために本人に損害を与えてしまうリスクもあります。

また、任意後見監督人への報酬支払を忌避するなどの目的で、任意後見監督人選任申立てが遅れてしまうケースもでてきています。しかし、委任契約のときから、継続的に本人の意向を聴取し、財産を把握しながら代理行為が行えるので、ご本人にとっても受任者の任意後見人は使い勝手が良い制度といわれているため、任意後見契約の約8割強がこの移行型です。

まとめ

・任意後見制度は、大きく2種類ある成年後見制度で、本人の判断能力がある場合に契約をし、判断能力がなくなったときに効力を発揮する制度

・誰に頼むも自由だが、実際の介護や葬儀の手配などはしてもらえない

・任意後見契約には3つのタイプがあり、移行型がポピュラーである

似ているようで制度の利用状況が違う、法定後見制度と任意後見制度。

いつ来るかわからない認知症に備え、まだ元気なうちに頼むことができる人をつくっておくことが、この制度の最大な利用価値なのかもしれません。

財産管理や相続登記など、専門知識を要することが想定される場合、終活全般に関してお悩みがある場合には、名古屋市熱田区の合同会社SBNに一度ご相談下さい。親切丁寧に対応させて頂きます。

参考:任意後見契約 | 公証役場紹介サイト (chibanotary.com)

任意後見契約の「即効型」についてもっと詳しくなろう|任意後見人について| 成年後見ナビ (kouken-navi.com)

任意後見制度利用の流れ | 世田谷区社会福祉協議会 (setagayashakyo.or.jp)

法定後見制度と任意後見制度 成年後見制度とは 名古屋市成年後見あんしんセンター (nagoya-seinenkouken.jp)