(本記事作成日:2021年10月31日)
これまでの記事で、遺言書の種類と内容をお伝えしてきました。
遺言書を作成することによって、自身の財産を、渡したい相手に渡した分だけ指定することができます。
しかし、全てを財産を遺言者の意思に基づき自由に配分できるわけではありません。
遺言書の記事の中でも少し触れましたが、相続においては「遺留分」というものがあります。
これがあることにより、相続人については、一定割合の相続を受ける権利があります。
今回の記事に関しては、この「遺留分」に関してお伝えしていきます。

★今回の記事がオススメの方
・遺言書の作成を考えている方
・遺言書によって財産を受け取る金額が少なくなった(無くなった)相続人の方

★過去記事
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  → 書いた遺言書が無効に!?必ず守るべき自筆証書遺言作成ルールがあります!
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  → 無効の心配が無い!トラブル防止にも役立つ「公正証書遺言」の作成流れについて
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遺留分とは

遺留分とは、相続人が最低限、受け取ることのできる財産(遺産)の割合のことを言います。
これにより、相続人には法律によって決められた割合の財産を受け取る権利が確保されます。
逆に言うと、遺言書を作成したとしても、この割合を超えて他者に財産を割り振ることはできないことになります。

遺留分が存在する背景としては、「相続人の生活の保障」があります。
本来、財産は被相続人(亡くなった方)のものであり、自由に処分できるはずです。
しかし、被相続人が仮に全ての財産を家族以外の第三者に、全て遺言書によって渡してしまったらどうなるでしょう。
遺された家族は、財産を失い、住んでいた家を失う、といった事態にもなりかねません。
被相続人の意思は尊重されるべきではありますが、それによって相続人の生活が立ち行かないことになる事態は望ましくありません。

遺留分の割合

遺留分が認められる人(遺留分権利者)

法律によって遺留分が認められている人のことを「遺留分権利者」と言います。
遺留分権利者は具体的には、以下の人を言います。

・被相続人の配偶者
・被相続人の子供
・被相続人の孫
・被相続人の親
・被相続人の祖父母

ここで注意すべきは、遺留分権利者には、兄弟姉妹は含まれていないと言う点です。
被相続人の兄弟姉妹に対しては、例え相続人となる場合でも、遺留分は認められないということです。

遺留分が認められない人

遺留分権利者と認められる関係性にある人であっても、以下の該当する場合には遺留分が与えられません。

1.相続欠格者
法律(民法891条)に規定されている相続欠格事由に該当する人をいいます。
具体的には、以下に該当する人になります。

・故意に被相続人又は同順位以上の相続人を死亡、または死亡させようとした場合
・被相続人が殺害されたのを知って告発または告訴を行わなかった場合
・詐欺または脅迫によって、被相続人の遺言や遺言の撤回・取り消し・変更を妨げた場合
・詐欺または脅迫によって、被相続人に遺言させ、撤回・取り消し・変更させた場合
・被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した場合

このように、相続内容を自己に有利なものにしようと不正をした相続人を排除する内容となっています。

2.相続人の廃除を受けた人
相続人の廃除とは、家庭裁判所に請求することで、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を行った相続人から相続人としての資格を剥奪することをいいます。
相続人の廃除は、法律に定められた以下のいずれかの方法によって行われます。

・被相続人が自分自身で家庭裁判所へ請求する
・被相続人の遺言書に基づき遺言執行者が家庭裁判所へ請求する

相続人の廃除は、いずれの場合でも、被相続人本人の意思のもとで行われます。
そのため、相続人が他の相続人を廃除することはできません。
相続人の廃除によって相続人としての資格を剥奪された相続人は、遺留分を請求することができなくなります。

3.相続放棄をした人
相続放棄とは、被相続人の財産を相続する権利を放棄することを言います。
当然ですが、相続放棄をした場合、その相続人は遺留分を請求することはできません。

4.遺留分の放棄をした人
遺留分の放棄とは、遺留分侵害額請求額を放棄することをいいます。
相続放棄と混同されますが、両者は明確に異なります。
相続放棄の場合は一切の財産を相続できないことになります。
一方、遺留分放棄は、遺留分侵害額請求権を失うだけであり、相続自体は可能になります。

遺留分権利者ごとの遺留分の割合

遺留分権利者のそれぞれの割合は、法定相続割合の1/2となります。
具体的には、以下の割合です。

・配偶者のみ → 配偶者 1/2
・配偶者と子供 → 配偶者 1/4 子供 1/4(子供が複数の場合は等分する)
・配偶者と親 → 配偶者 1/3 親 1/6(両親ともに相続人の場合は等分する)
・子供のみ →  子供 1/2(子供が複数の場合は等分する)
・親のみ → 親 1/3

上記の割合は、遺言書が作成されている場合でも、該当する相続人は自己の遺留分割合を主張することができます。

遺留分が侵害された場合

遺留分侵害額請求権について

上記の通り、遺留分権利者には法律によって、それぞれの遺留分割合が定められています。
実際に相続が発生した場合、相続した財産が遺留分割合に満たない場合には、不足分を他の相続人や受遺者(遺言書によって財産を受け取る人)に請求することができます。
この権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。
遺留分が侵害されていても、侵害されている本人がこの権利を請求しなければ、そのままの割合で遺産が分配されることになります。
そのため、遺留分が侵害されている場合には、侵害されている相続人が他の相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使する必要があります。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権の行使には時効があります。
これは「遺留分の侵害(相続の開始および遺留分を侵害する贈与又は遺贈)があったことを知った時から1年」が時効となっています。
また、遺留分の侵害を知らない場合でも、相続の開始から10年が経過した場合にも時効によって権利は消滅してしまいます。
相続税の申告等の手続きに追われる中で、時効が過ぎてしまうこともあります。
期限に関してはくれぐれも注意しましょう。

遺留分侵害額請求権の行使方法

行使の方法には要件はありません。
そのため、口頭で行使した場合でも有効になります。
しかし、口頭で行われた場合、遺留分の主張が時効期限を過ぎる前に行われたかが争われた際、それを証明することが困難になります。
そのため、実際には内容証明郵便が利用されることがほとんどです。
内容証明郵便を利用することによって、文書内容と配達日時を証明することができます。

内容証明郵便で遺留分侵害請求権を行使しても、相手方である相続人または受遺者が応じない場合、家庭裁判所の調停(遺留分減殺調停)を利用することができます。
調停とは、当事者同士で争いごとが解決できない場合、裁判官が間に入り紛争解決の手助けをしてくれる制度のことです。
調停を行ってもお互いの主張が折り合わない場合には、訴訟(遺留分減殺請求訴訟)を行うことになります。

調停が折り合わず、訴訟に進む場合、地方裁判所にて手続きを行います。
訴訟の場合には強制力があるため、判決という形で裁判所が解決を図ります。
判決が出た場合には、当事者が同意していなくても、財産差し押さえなどの形で強制的に判決内容が実現されることになります。

まとめ

・遺留分とは、遺言書があっても侵害できない相続人の相続割合のことをいう
・遺留分がある権利者は、配偶者・子(孫)・親(祖父母)であり、兄弟姉妹には権利は無い
・遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使でき、当事者間で解決できない場合には調停・訴訟を行うことができる

遺言書を作成する場合には、遺留分を考慮した内容とすることで、相続時の相続人の争いを防ぐことが出来ます。
遺言書の書き方や内容を初めとして、終活に関してお悩みがある場合には、名古屋市熱田区にある合同会社SBNにご相談下さい。
初回無料にてご相談頂けます。
親切丁寧に対応させて頂きます。

参考
裁判所 https://www.courts.go.jp/index.html
法テラス https://www.houterasu.or.jp/index.html
公益財団法人日本財団 https://izo-kifu.jp/